そして時は2020

「英語上手ですね!」

こっちに来てローカルのシンガポーリアンによく言われる言葉。ただし、これには必ず枕詞が付く。

「日本人なのに、英語上手ですね!」

それで私の頭の中に純粋な疑問が沸く。え?日本人はそんなに英語が下手なのか??こんなに大勢の日本人がシンガポールに住んでいるのに??と。

私はネイティブでもなけりゃ帰国子女でもない、学生時代に留学もしたことのない、大人になってから英語を学んだ割と底辺の英語力の人間だと思っていたけれど、私以下の英語力で働いたり生活したりしている日本人の多いことにゾッとなる。それって生活成立してるんだろうか!

この10年、私には英語コンプレックスがずっとつきまとっていたというのに。

それでまたニューヨークにいた頃を思い出してみる。ニューヨーク在住の日本人は、一部の浮かれた若い語学学生を除いては、みんなそれなりに英語はできたように思う。(だってみんな必死でサバイブして生きているしね) それに、ひと口に日本人といっても、ジャパニーズアメリカンもたくさんいるし、もはや日本に帰っても順応できないだろうな、という類の長年住んでいる人たちも多かった(=クセが強いアメリカナイズド日本人。略してクセ人とわたしは心で呼んでいる) だからなのか、ニューヨークで同じ褒め言葉を同じニュアンスでもらうことはただの一度もなかった気がする。

むしろ、こいつ英語下手だなあ。。と思われていたことがずば抜けて多かったと思う。当時の彼氏には、君の英語は一切上達しないな!なんて、どストレートに言われていたりした。まあこれは彼がノンネイティブだったから許せる話。彼がネイティブ話者だったら、私はきっと「てめーの日本語も上達しないな!」とキレていたに違いない。ちなみに余談だけど、そう言われたときの私の返しはお約束のように決まっていて、What the fuck! と言いながら彼の頬をグーで殴る。(汚いニューヨーク英語上手いでしょ?という皮肉を込めて) それを4年間続けていたんだ、成長しないはずだわ笑。

 

ところで「○○語上手ですね」はとても使うのに難しい表現だと思う。受け手にとってもセンシティブ。だって考えてもみてほしい。ネイティブレベルでペラペラ話す相手に対して、お上手ですね。とあなたは言うだろうか。言わない、というか言えないでしょう!?

つまり、○○語上手ですねには、=がんばって習得したんですねのニュアンスが必ず含まれる。裏を返せば、「ネイティブとは明らかに違いますね」と言われているようなもの。自分だってそうだ。明らかにカタコトの外国人がアリガトウとかドウイタシマシテとか、頑張って日本語を話してくれるとついつい、「日本語上手ですね!どこで覚えたんですか?」と言いたくなってしまう。

だから私は「英語上手ですね」と言われるたびにモヤモヤせずにはいられなかった。そう言われれば言われるほど落ち込んだものだった。その通り、年月が経って多少なりともカタコトのレベルを超えてからは、魔の「英語上手ですね」を言われる回数が徐々に減っていったように思う。

あんなに人を落ち込ませた「英語上手ですね問題」。晴れて終止符を打ったかのように思われたが、ときは2020年。再びこのシンガポールの地で言われる日が来ようとは!

でも、あのとき言われたそれとはニュアンスが確実に違っている。面白いことに、どうやら彼らは私の英語を、純粋に上手いと思って褒めてくれているようなのだ。

うーむ。理由を考えてみると、第一に、シンガポールには圧倒的に前述の「クセ人」が少ない。日系シンガポール人なんてのもまだお目にかかったことがない。

逆に、本当に普通の、海外に住んでいそうもない素敵な家族が住んでいたりする。まあ、平たく言ってしまえば、シンガポール在住者のほとんどが駐在員だからである。実はシンガポールの日本人には意外とダイバーシティがなくて、至極真っ当な駐在員か、我々のようなちょっとしたアウトサイダー現地採用ジャパニーズの二択。以上。

ニューヨークみたいな多様なクラスターは存在しない。思い返せば私はニューヨークに住むクセ人たちや、対岸のニュージャージーの日系コミュニティに住む日系アメリカ人のおばあちゃんたちのことが結構好きだった。日系スーパーで英語と日本語ごちゃ混ぜの物言いで買い物する彼らの背後に人生が見えて、妙な愛しさと哀愁を感じたものだった。

言ってみればシンガポールはその対極。「海外?たまたま派遣されました駐在員&駐妻でーす。」みたいなおいおいハワイの観光客かよみたいな人たちがわんさか住んでいるのだ。(すっごい偏見とステレオタイプですみません。私がいかに駐在員が嫌いかってことがバレてしまう笑。もちろん、そうではない駐在員もいると思いますが個人ブログなので偏見はご了承を。笑)

だけどこれってすごいこと。言葉ができなくても生活できるシンガポール!ばんざい!

駐在員は正直それで良いと思う。4、5年して楽しかった思い出として日本に帰ればいいのだから。結局日本に帰って日本の文化と日本の言語で生活するのだから現地に染まる必要も現地の言葉を必死で習得する必要もない。

そこで私みたいな中途半端な英語人間は褒められる。要はここに住んでる日本人の英語力のアベレージが低すぎるから。とあるデート相手には最近「君ならわざわざ日系で汗水流して働くことないよ、楽な米系企業に転職しなよ」とまで言われたし。

でも、やっぱりモヤモヤは晴れない。なぜかって?それは褒めてくれるシンガポール人の英語自体が訳わからないから!笑。これは別のトピックで書こうと思っていたのだけど、実は私はここ1ヶ月、シングリッシュが本当に聞き取れなくて相当に困っている。中華系のアクセントと文法に乗って話される独特な英単語。。本当にキツくて何言ってんだが理解不能。。渡星当初は、自分の英語力が極端に落ちたのではないかと思ってすごく焦った。でもそれが自分のせいではないとわかって安心したのも束の間、私がシンガポールに住んでシングリッシュの中で生活しているのは紛れもない現実!私はここに染まらなければいけないんです。。

シングリッシュの源流がイギリス英語だというのも地味にキツい。私は完全にアメリカ英語贔屓の人間なので、mind the gapではなくてwatch the stepだし、metroでもtubeでもなくsubwayなのです。

シンガポール人に「あれって何?」って聞いた時の答えが「カッパッ」と言われて3回聞きなおしたこともある。カッパッ→カーパーク→car park つまり駐車場のこと。アメリカではcar parkではなくてparking lotだから、たとえ綺麗な英語でcar parkと言われても2秒は戸惑うのに、カッパッじゃわかりようがないよ。ああ、ストレス。。

渡米当初に「ハット食べるか?」と言われて戸惑ったこともあったけど。ハットはhot dog =ホットドッグのことでした。ああ、これはニューヨーク弁。話逸れるけど、125丁目以北に住んでるブラックカルチャー強めのニューヨーカーはTHの発音がDになる。That ではなくDat。THの発音が苦手な日本人には朗報だけど、♪悪そな奴らだいたい友達♪なYo Yo系が使ってかっこいいなまりだから、ラップも一緒に練習しないとサマになんないね。ってくだらなくてごめんなさい。

 

ところ変われば言葉も変わる。当然だけど、でも、私の英語上手ですね問題は2020年現在も形を変えて進行中だし、このモヤモヤはたぶん一生晴れることはないでしょう。。おしまい!